百人一首の現代語訳一覧

百人一首の現代語訳一覧

百人一首とは、飛鳥時代から鎌倉時代までの百人の歌人の和歌を、一人につき一首ずつ選んだ秀歌撰です。

鎌倉時代初期に、公家で優れた歌人でもあった藤原定家ふじわらのさだいえが京都小倉山の山荘で編纂したことに由来し、『小倉百人一首』という呼び名で知られています。

定家が、古今の男女百人の秀でた歌人を選び、一人につき一首を選出したアンソロジーです。

今で言えば、ある有名な権威ある大御所ミュージシャンが、自分の歌も含め、百人のミュージシャンからそれぞれ一曲ずつを選び、一枚のアルバムにまとめる、といったものでしょうか。

この『小倉百人一首』が成立した年代は、はっきりとはわかっていませんが、13世紀前半だと推定されています。

成立当初、『小倉百人一首』に一定の呼び名はなく、「小倉山荘色紙和歌」「嵯峨山荘色紙和歌」「小倉色紙」などと呼ばれ、その後、小倉百人一首という呼び名が定着します。

もともと、定家の親戚(息子の義父)に当たる宇都宮頼綱うつのみやよりつなから、嵯峨中院の山荘の障子に貼る「色紙和歌」の執筆を依頼され、その際、定家が各人一首の和歌を選んで書いていることから、この色紙和歌が、百人一首の起源と考えられています。

定家直筆で、本来100枚あると考えられる小倉色紙のうち、現存するものは30枚程度で、江戸時代の頃にはすでに同程度しか残っていなかったようです。

画像 : 藤原定家『小倉色紙』 鎌倉時代初期

また、『百人一首』と似たような構成で、同じく藤原定家の秀歌撰として『百人秀歌』があります。

百人一首と百人秀歌は、97首の歌が一致していますが、百人秀歌では、後鳥羽院と順徳院の和歌を欠いています。

その他、両者の違いとしては、百人一首は、百人で一人一首ずつとなっている一方、百人秀歌のほうは、百人とあるものの、実際には、101人の歌が一首ずつ選ばれています。

歌人はほぼ共通していますが、先ほども触れたように、二、三人共通しない歌人もいます。

また、配列の違いとして、百人一首は基本的に年代順なのに対し、百人秀歌は、年代順というより、二首で一組という構成になっています。

成立が、どちらが先か、といった点については、両方の説があり、現在も定まっていません。

百人一首は、その後、「カルタ」としても普及し、広く浸透していきます。

今でも小学生の頃やお正月などにカルタ遊びを通じて百人一首を暗記した、という人も少なくないのではないでしょうか(参照 : 百人一首かるたのおすすめ人気ランキング20選)。

百人一首がカルタの形になるのは近世、戦国時代にスペインやポルトガルなどヨーロッパ文化が流入し、カードゲームが伝わったことにより、伝統的な文化と混ざり合いながら、百人一首のカルタが登場します。

カルタ取りが始まったのは、江戸時代と言われていますが、そもそもは競技用ではなく、百人一首を覚えるためのものであり、現在のような形に整備されたのは明治に入ってからのことでした。

初めてカルタの大会が開催されたのも、明治30年のことだったようです。

それでは、以下、百人一首の原文や現代語訳、用語の意味や解説の一覧(前半の五十首)を紹介したいと思います。

現代語訳は、歌の雰囲気が分かりやすいように、多少意訳となり、頭の数字が和歌番号、その後が、作者名となっています。

001 天智てんじ天皇

〈原文〉

秋の田のかりほのいほとまをあらみわが衣手ころもでつゆに濡れつつ

〈現代語訳〉

秋の田の傍にある粗末な仮小屋は、苫葺き屋根の目が粗いので、私の衣の袖は、隙間から漏れる冷たい夜露で濡れてしまっているよ。

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002 持統じとう天皇

〈原文〉

春すぎて夏にけらし白妙しろたへの衣ほすてふあま香具山かぐやま

〈現代語訳〉

春が過ぎ去り、いつのまにか夏が来たようだ。香具山には、(夏になると干されると言う)あんなにたくさんの真っ白な着物が干されているのだから。

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003 柿本人麻呂かきのもとのひとまろ

〈原文〉

あしびきの山鳥やまどりの尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

〈現代語訳〉

夜になると雄と雌が谷を隔てて別々に寝る山鳥の長く垂れ下がった尾のように、こんなにも長い長い夜を、私もまた、ひとり寂しく寝るのだろうか。

 

004 山部赤人やまべのあかひと

〈原文〉

田子たごの浦にうちでてみれば白妙しろたへの富士の高嶺たかねに雪は降りつつ

〈現代語訳〉

田子の浦の海岸に出てみると、雪をかぶった真っ白な富士の高嶺に雪が降っているよ。

 

005 猿丸大夫さるまるだゆう

〈原文〉

奥山おくやま紅葉もみぢ踏み分け鳴く鹿しかの声聞くときぞ秋は悲しき

〈現代語訳〉

人里離れた奥深い山のなかで、地面に散り敷かれた紅葉を踏み分け、恋しい相手を求めて鳴く鹿の声を聞くとき、秋はなんとも物悲しく感じるものだ。

 

006 中納言家持ちゅうなごんやかもち

〈原文〉

かささぎの渡せる橋に置くしもしろきを見ればけにける

〈現代語訳〉

カササギが架け渡したという天の川の橋に散らばる、霜のように白く冴え冴えした星々を見ていると、夜もずいぶん更けたなぁと感じる。

 

007 阿倍仲麻呂あべのなかまろ

〈原文〉

あまはらふりさけ見れば春日かすがなる三笠みかさの山にでし月かも

〈現代語訳〉

大空を振り仰いで見ると、美しい月が見える、あの月は故郷の春日の三笠の山に出ていた月と同じ月だろうか。

 

008 喜撰法師きせんほうし 

〈原文〉

わがいほみやこ辰巳たつみしかぞすむ世をうぢやまと人はいふなり

〈現代語訳〉

私の庵は都の東南にあり、このように心静かに住んでいる。それなのに、世間の人たちは、私が世を憂きものと思って宇治の山に住んでいると言っているそうだ。

 

009 小野小町

〈原文〉

はないろはうつりにけりないたづらに我身わがみ世にふるながめせし

〈現代語訳〉

美しかった花の色もすっかり色褪せてしまったなぁ、むなしく、降り続く長雨をぼんやりと眺めて物思いにふけっているうちに(私もまたこの世で年をとってしまった)。

 

010 蝉丸せみまる 

〈原文〉

これやこのくもかへるもわかれてはるもらぬも逢坂あふさかせき

〈現代語訳〉

これだよ、これが、あの有名な、東国へ旅立っていく人も都へ帰る人も、ここで別れては、知っている人も知らない人も、またここで出会うという逢坂の関だよ。

 

011 参議さんぎたかむら 

〈原文〉

わたのはら八十島やそしまかけてでぬとひとにはげよ海人あまぶね

〈現代語訳〉

大海原の多くの島々を目指して漕ぎ出していったと、都に残してきた人に告げてくれないか、漁師の釣り船よ。

 

012 僧正遍昭そうじょうへんじょう 

〈原文〉

あまかぜくもかよきとぢよ乙女をとめ姿すがたしばしとどめむ

〈現代語訳〉

空を吹く風よ、雲のなかにあるという天に通じる道を吹いて閉ざしておくれ、天に帰っていく乙女たちの姿を、もうしばらくここに留めておきたいのだよ。

 

013 陽成院ようぜいいん

〈原文〉

筑波嶺つくばねみねよりつるみなのがはこひもりてふちとなりぬる

〈現代語訳〉

筑波山の峰から流れ落ちる水無川みなのがわの水が、積もり積もってやがては深い淵をつくるように、あなたへの恋心も積もり、今では淵のように深い想いとなった。

 

014 河原左大臣かわらのさだいじん

〈原文〉

陸奥みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑにみだれそめにしわれならなくに

〈現代語訳〉

奥州のしのぶ摺りの乱れ模様のように、いったい誰のために私の心も思い乱れ始めているのでしょう、私のせいではないのに(きっとあなたのせいですよ)。

 

015 光孝こうこう天皇 

〈原文〉

きみがためはるでて若菜わかなむわが衣手ころもでゆきりつつ

〈現代語訳〉

あなたのために春の野に出て若菜を摘んでいる、私の袖にちらちらと雪が降りかかっていることよ。

 

016 中納言行平ちゅうなごんゆきひら 

〈原文〉

わかれいなばのやまみねふるまつとしかばいま帰り来む

〈現代語訳〉

あなたと別れ、因幡国いなばのくにへ行くけれども、稲葉山の峰に生えている松のように、あなたが待っていると聞いたなら、すぐにでも帰ってきましょう。

 

017 在原業平ありわらのなりひら朝臣あそん 

〈原文〉

ちはやぶる神代かみよかず竜田川たつたがはからくれなゐにみづくくるとは

〈現代語訳〉

神々の時代にさえ聞いたことがない、こんな風に竜田川一面に紅葉が散り敷かれ、流れる水を真紅に染め上げるなどということは。

 

018 藤原敏行ふじわらのとしゆき朝臣あそん 

〈原文〉

すみきしなみよるさへやゆめかよ人目ひとめよくらむ

〈現代語訳〉

住の江の岸には波が寄るというのに、昼だけでなく夜の夢のなかの私のもとへと向かう通い路でさえ、あなたは人目をはばかって会ってはくれないのだろうか。

 

019 伊勢

〈原文〉

難波潟なにはがたみじかきあしのふしのはでこのぐしてよとや

〈現代語訳〉

難波潟の入り江に生えている葦の、短い節と節の間のようなほんの短い時間でさえお会いできないで、この世を過していけとおっしゃるのでしょうか。

 

020 元良親王もとよししんのう 

〈原文〉

わびぬればいまはたおな難波なにはなるをつくしてもはむとぞおも

〈現代語訳〉

これほどに辛く思い悩んでいるのなら、今はもはや破滅したも同然のこと。いっそ、あの難波の澪標みおつくしのように、この身を滅ぼしてでもあなたに逢いたいと思う。

 

021 素性法師そせいほうし 

〈原文〉

いまむとひしばかりに長月ながつき有明ありあけつきでつるかな

〈現代語訳〉

あなたが、「今すぐに行きましょう」とおっしゃったので、九月の長い夜を待っていたのに、とうとう有明の月の出を待ち明かしてしまいましたよ。

 

022 文屋康秀ふんやのやすひで 

〈原文〉

くからにあき草木くさきのしをるればむべ山風やまかぜをあらしといふらむ

〈現代語訳〉

山から秋風が吹き下ろすと、たちまち秋の草や木が萎れるので、なるほど、だから山風のことを「荒らし」、すなわち「嵐」というのだろう。

 

023 大江千里おおえのちさと 

〈原文〉

つきれば千々ちぢものこそかなしけれわがひとつのあきにはあらねど

〈現代語訳〉

秋の月を眺めていると、様々に物事が悲しく感じられる、私一人のために訪れた秋ではないのだけれども。

 

024 菅家かんけ 

〈原文〉

このたびはぬさりあへず手向山たむけやま紅葉もみぢにしきかみのまにまに

〈現代語訳〉

この度の旅は急なことだったので、捧げる幣を用意しておりません。手向山の神様よ、この山の錦のような美しい紅葉を幣として捧げますので、どうかお心のままにお受け取り下さい。

 

025 三条右大臣さんじょうのうだいじん 

〈原文〉

にしはば逢坂山あふさかやまのさねかづらひとられでくるよしもがな

〈現代語訳〉

逢坂山の小寝葛さねかずらが、「逢う」「さ寝」というその名の通りであるなら、逢坂山のさねかずらを手繰り寄せるように、誰にも知られずあなたのもとを訪ねて行く手立てがあればいいのに。

 

026 貞信公ていしんこう 

〈原文〉

小倉山をぐらやまみねのもみぢこころあらばいまひとたびのみゆきたなむ

〈現代語訳〉

小倉山の峰の美しい紅葉の葉よ、もしお前に哀れむ心があるならば、もう一度天皇の行幸があるので、散るのを急がずに待っていてくれないか。

 

027 中納言兼輔ちゅうなごんかねすけ 

〈原文〉

みかのはらわきてながるるいづみがはいつきとてかこひしかるらむ

〈現代語訳〉

みかの原から湧き出て、かき分けるようにして流れる泉川、その「いつ」という言葉ではないが、いつ逢ったといって、(一度も逢ったことがないのに)こんなにも恋しくなってしまうのだろうか。

 

028 みなもとの宗于朝臣むねゆきあそん 〜939

〈原文〉

山里やまざとふゆさびしさまさりける人目ひとめくさもかれぬとおもへば

〈現代語訳〉

山里は、冬こそとりわけ寂しさがつのるものだ、人も訪れることがなくなり、草も枯れてしまうのだと思うと。

 

029 おおし河内躬恒こうちのみつね 

〈原文〉

こころあてにらばやらむ初霜はつしもきまどはせる白菊しらぎくはな

〈現代語訳〉

もし折るならば当てずっぽうに折ってみようか、真っ白な初霜が降り、霜と白菊の花と見分けがつかなくなっているのだから。

 

030 壬生みぶの忠岑ただみね 

〈原文〉

有明ありあけのつれなくえしわかれよりあかつきばかりきものはなし

〈現代語訳〉

有明の月は冷淡に見え、あなたもその有明の月のようにそっけないもので、あなたと別れて以来、夜明け前の月ほど憂鬱なものはありません。

 

031 坂上是則さかのうえのこれのり

〈原文〉

あさぼらけ有明ありあけつきるまでに吉野よしのさとれる白雪しらゆき

〈現代語訳〉

夜が明け始める頃、まるで有明の月かと思うほどに、吉野の里に降っている白雪よ。

 

032 春道列樹はるみちのつらき 

〈原文〉

山川やまがはかぜのかけたるしがらみはながれもあへぬ紅葉もみぢなりけり

〈現代語訳〉

山のなかの川に、風がかけた流れ止めのしがらみは、流れきれずにいる紅葉だったのだ。

 

033 紀友則きのとものり

〈原文〉

久方ひさかたひかりのどけきはるにしづこころなくはなるらむ

〈現代語訳〉

日の光が降り注いでいるのどかな春の日に、どうして落着いた心もなく、桜の花は散っていくのだろうか。

 

034 藤原興風ふじわらのおきかぜ

〈原文〉

たれをかもひとにせむ高砂たかさごまつむかしともならなくに

〈現代語訳〉

年老いた私は(友人たちももう亡くなり)、一体誰を親友にすればよいのだろうか。長寿の高砂の松でさえ、昔からの友ではないのだから。

 

035 紀貫之きのつらゆき 

〈原文〉

ひとはいさこころらずふるさとははなむかしににほひける

〈現代語訳〉

あなたの心はどうでしょうかね、人の心は分かりませんが、昔馴染みのこの里では、梅の花はかつてのように今もよい香りで匂っていますよ。

 

036 清原きよはらの深養父ふかやぶ 

〈原文〉

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ
(なつのよはまだよひながらあけぬるをくものいづこにつきやどるらむ)

〈現代語訳〉

夏の夜は短く、まだ宵だと思っているうちに明けてしまったが、西の山陰に行き着くことのできなかった月は、一体雲のどの辺りに宿をとっているのだろうか。

 

037 文屋朝康ふんやのあさやす 

〈原文〉

白露しらつゆに風の吹きしく秋のはつらぬきとめぬ玉ぞ散りける

〈現代語訳〉

草葉の上の白露に風がしきりに吹きつけている秋の野は、まるで糸を通していない真珠の玉が、美しく散り乱れているようだ。

 

038 右近うこん 

〈原文〉

忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな

〈現代語訳〉

あなたに忘れ去られる我が身のことは何ほどのことも思いません。ただ、私を愛すると神に誓ったあなたの命が、神の罰を受けないかと惜しまれてなりません。

 

039 参議等さんぎひとし 

〈原文〉

浅茅生あさぢふの小野の篠原しのはらしのぶれどあまりてなどか人の恋しき

〈現代語訳〉

ちがやの生えた寂しく忍ぶ小野の篠原の「しの」のように、あなたへの思いを忍んでいるものの、もはや忍びきることはできず、どうしてこのようにあなたが恋しいのだろうか。

 

040 平兼盛たいらのかねもり 

〈原文〉

忍ぶれど色にでにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

〈現代語訳〉

知られまいと恋しい思いを隠していたが、隠しきれずに態度に表れてしまったようだ、私の恋は。「恋をしているのでは」と人が尋ねるほどまでに。

 

041 壬生みぶの忠見ただみ

〈原文〉

恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか

〈現代語訳〉

恋をしているという私の噂が、もう世間の人たちのあいだに広まってしまったようだ。人知れず、密かに思いはじめたばかりなのに。

 

042 清原元輔きよはらのもとすけ

〈原文〉

ちぎりきなかたみに袖をしぼりつつすゑ松山まつやま波こさじとは

〈現代語訳〉

約束をしましたよね、お互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、波があの末の松山を決して越すことがないように、私たちの愛も決して変わらないと。

 

043 権中納言ごんちゅうなごん敦忠あつただ

〈原文〉

逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり

〈現代語訳〉

あなたに逢って愛し合った後の恋しい気持ちと比べると、逢いたいと思っていた昔の恋心の苦しみなどは無いと同じようなものだったなぁ。

 

044 中納言ちゅうなごん朝忠あさただ 

〈原文〉

逢ふことの絶えてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし

〈現代語訳〉

あなたと一度も結ばれていないなら、あなたの冷たさも、自分の不幸も、こんなに恨むことはなかっただろうに。

 

045 謙徳公

〈原文〉

哀れともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな

〈現代語訳〉

私を哀れだと慰めてくれる人がいるようにも思えず、私はただ、あなたを恋しく思いながら虚しく死んでいくのでしょう。

 

046 曽禰好忠そねのよしただ

〈原文〉

由良ゆらを渡る舟人ふなびとかぢを絶えゆくへも知らぬ恋の道かな

〈現代語訳〉

由良の門を渡る船人が、梶をなくして、どこへ漕いでいったらいいのか行方が分からないように、これからどうすればいいのか途方に暮れる恋の道だよ。

 

047 恵慶えぎょう法師ほうし

〈原文〉

八重やへむぐらしげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋はにけり

〈現代語訳〉

幾重にも雑草の生い茂ったこの家は寂しく、誰も訪ねてはこないが、ここにも秋だけは確かに訪れるようだ。

 

048 源重之みなもとのしげゆき

〈原文〉

風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけて物を思ふころかな

〈現代語訳〉

風が激しく、岩に打ち当たる波が(岩はなんともないのに)自分だけが砕け散ってしまうように、(あなたは平気で)私だけが心も砕けるように恋の思いに悩んでいるこの頃よ。

 

049 大中臣おおなかとみの能宣朝臣よしのぶあそん

〈原文〉

みかきもり衛士ゑじのたくの夜はもえ昼は消えつつ物をこそ思へ

〈現代語訳〉

宮中の御門を守る御垣守みかきもりである衛士えじの燃やすかがり火が、夜に赤々と燃え、昼は消えているように、私の心も夜は情熱に燃え、昼は消え入るように物思いにふけり、日々恋に悩んでいる。

 

050 藤原義孝ふじわらのよしたか

〈原文〉

君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな

〈現代語訳〉

あなたに逢えるなら惜しいとも思わなかった命ですが、こうしてあなたと逢瀬が叶った今では、長く生きていたいと思うようになりました。

 

51 藤原実方ふじわらのさねかた朝臣あそん

〈原文〉

かくとだにえやは伊吹いぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

〈現代語訳〉

せめて、こんなにもあなたに恋しているのだと言えればいいのですが、言えません。だから、あなたは、伊吹山のさしも草が燃える火のように、燃え上がる私の恋の思いをご存知でないでしょうね。

 

52 藤原道信ふじわらのみちのぶ朝臣あそん

〈原文〉

明けぬればるるものとは知りながらなほ恨めしきあさぼらけかな

〈現代語訳〉

夜が明ければ、やがて日が暮れると、わかっていながら、やはり恨めしい朝ぼらけだなぁ。 

 

53 右大将うだいしょう道綱みちつなのはは

〈原文〉

なげきつつひとりの明くるはいかに久しきものとかは知る

〈現代語訳〉

嘆きながら一人で孤独に寝ている夜が明けるまでの時間が、どれほど長いかご存知ないでしょうね。

 

54 儀同三司ぎどうさんしのはは

〈原文〉

忘れじの行くすゑまではかたければ今日けふをかぎりのいのちともがな

〈現代語訳〉

「いつまでも忘れない」と言っても、将来もずっと変わらないというのは難しいでしょうから、そう言ってくださる今日が最後の命であればいいのに。

 

55 大納言公任だいなごんきんとう

〈原文〉

滝のおとえて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ

〈現代語訳〉

滝の流れる水音は、絶えてから長い年月が経ったけれども、その名声は今も流れ伝わって、聞こえてくることよ。

 

56 和泉式部いずみしきぶ

〈原文〉

あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな

〈現代語訳〉

私はもうすぐ死んで、この世からいなくなるでしょう。あの世への思い出として、せめてもう一度だけ、あなたにお会いしたいのです。

 

57 紫式部むらさきしきぶ

〈原文〉

めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半よはの月影

〈現代語訳〉

せっかく巡り会えたのに、あなたが本当に幼友達かどうか見分けられないうちに、まるで夜中に隠れる月のように、あっという間にあなたは姿を隠してしまったね。

 

58 大弐三位だいにのさんみ

〈原文〉

有馬山猪名ゐなの笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする

〈現代語訳〉

有馬山の近くにある猪名の笹原に風が吹き、笹の葉が揺れ、そよそよと音を立てる、そうよ(そよ)、そのようにあなたのことを忘れなどするものですか。

 

59 赤染衛門あかぞめえもん

〈原文〉

やすらはで寝なましものを小夜さよ更けてかたぶくまでの月を見しかな

〈現代語訳〉

ぐずぐずと寝ないであなたの訪れを待っているのではなく、さっさと寝てしまえばよかったのに、(あなたのことを待っているうちに)夜が更けて、西に傾いて沈んでいく月を見てしまいました。

 

60 小式部内侍こしきぶのないし

〈原文〉

大江山おほえやまいく野の道の遠ければまだふみも見ずあま橋立はしだて

〈現代語訳〉

大江山を越え、生野の道を通り、母の住む丹後国に行く道のりは大変遠いので、まだ天橋立も踏んではいませんし、母からの手紙も届いていません。

 

61 伊勢大輔いせのたいふ

〈原文〉

いにしへの奈良の都の八重桜やへざくら今日けふ九重ここのへにほひぬるかな

〈現代語訳〉

いにしえの昔の奈良の都の八重桜が、今日、九重の宮中で美しく咲き誇っていますよ。

 

62 清少納言せいしょうなごん

〈原文〉

をこめて鳥のそらははかるとも世に逢坂あふさかせきはゆるさじ

〈現代語訳〉

夜がまだ明けていないのに、鶏の鳴き真似をして騙そうとしても、函谷関ならいざ知らず、この逢坂の関の関守は決して許しませんし、私も騙されて会ったりはしませんよ。

 

63 左京大夫さきょうのだいぶ道雅みちまさ

〈原文〉

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

〈現代語訳〉

今となってはただ、諦めましょう、ということを人づてではなくあなたに直接伝える方法があってほしいものだ。

 

64 権中納言ごんちゅうなごん定頼さだより

〈原文〉

朝ぼらけ宇治うぢ川霧かはぎりたえだえにあらはれわたる瀬々せぜ網代木あじろぎ

〈現代語訳〉

夜がほのかに明けてくる頃、宇治川に立ち込めていた霧も薄らいできた。その霧の絶え間から次第に現れてくる、浅瀬にかけられた網代木よ。

 

65 相模さがみ

〈原文〉

恨みわび干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

〈現代語訳〉

もう恨む気力もなく、泣き続けて涙を乾かしきれずに朽ちてゆく着物の袖さえも惜しいのに、恋によって悪い噂を立てられ、朽ちていく私の評判がいっそう残念でありません。

 

66 前大僧さきのだいそう正行尊じょうぎょうそん

〈原文〉

もろともにあはれと思へ山桜やまざくら花よりほかに知る人もなし

〈現代語訳〉

私があなたを愛おしいと思っているように、あなたも愛おしいと思っておくれ、山桜よ。この山奥には、桜の花以外に、私の気持ちをわかってくれる人などいないのだから。

 

67 周防内侍すおうのないし

〈原文〉

春のの夢ばかりなる手枕たまくらにかひなく立たむ名こそ惜しけれ

〈現代語訳〉

短い春の夜の儚い夢のような、あなたのたわむれの手枕のせいで、もしつまらない浮き名が立ってしまうのであれば口惜しいではありませんか。

 

68 三条院さんじょういん

〈原文〉

心にもあらでき世にながらへばこひしかるべき夜半よはの月かな

〈現代語訳〉

心にもなく、この儚くつらい現世で生き長らえたなら、きっと恋しく思い出されるに違いない、今宵の月だなぁ。

 

69 能因法師のういんほうし

〈原文〉

あらし吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川のにしきなりけり

〈現代語訳〉

激しい山風が吹いている三室山の紅葉が吹き散らされ、竜田川の水面を彩る美しい錦のようだ。

 

70 良暹法師りょうぜんほうし

〈原文〉

寂しさに宿やどを立ちでてながむればいづこもおなじ秋の夕暮れ

〈現代語訳〉

寂しさのあまり庵を出て外を眺めたら、どこも同じように寂しい秋の夕暮れよ。

 

71 大納言経信だいなごんつねのぶ

〈原文〉

ゆふされば門田かどた稲葉いなばおとづれてあしのまろやに秋風ぞ吹く

〈現代語訳〉

夕方になると、家の門前に広がる田んぼの稲の葉に音を立てて、芦葺きの田舎家に秋風が吹き渡ってくるよ。

 

72 祐子内親王ゆうしないしんのう家紀伊けのきい

〈原文〉

音に聞く高師たかしの浜のあだ波はかけじやそでの濡れもこそすれ

〈現代語訳〉

噂に名高い、高師の浜にいたずらに立つ波にかからないようにしますよ、袖が(涙で)濡れては困りますから(浮気者だと噂に高い、あなたの言葉は心にかけずにおきますよ、涙で袖を濡らしてはいけませんから)。

 

73 権中納言ごんのちゅうなごん匡房まさふさ

〈原文〉

高砂たかさごの桜咲きにけり外山とやまかすみ立たずもあらなむ

〈現代語訳〉

遠くにある高い山の頂にある桜が咲いた。近くの山の霞よ、桜が霞んでしまわないように、どうか立たずにいてほしい。

 

74 源俊頼朝臣

〈原文〉

かりける人を初瀬はつせの山おろしよはげしかれとは祈らぬものを

〈現代語訳〉

私に冷淡なあの人に愛されたいと初瀬の観音様に祈ったけれども、初瀬の山の山おろしよ、こんなに冷たく吹き荒れてほしいとは祈っていなかったのに、お前のように、あの人もどんどん冷たくなっていく。

 

75 藤原基俊

〈原文〉

ちぎりおきしさせもがつゆを命にてあはれ今年の秋もぬめり

〈現代語訳〉

お約束してくださった、「私を頼りにしなさい」というあなたの言葉を頼みの綱にしているうちに、ああ、今年の秋も虚しく去っていくようだ。

 

76 法性寺入道前関白太政大臣

〈原文〉

わたのはらぎ出でて見れば久かたのくもにまがふおき白波しらなみ

〈現代語訳〉

大海原に漕ぎ出して遠くを眺めてみれば、空の雲かと見間違うほどに沖に立つ白波よ。

 

77 崇徳院すとくいん

〈原文〉

をはやみ岩にせかるる滝川たきがはのわれても末にはむとぞ思ふ

〈現代語訳〉

瀬の流れが速く、岩にせき止められた滝川の急流が二つに分かれても、また一つになるように、あなたと今は別れても、いつかきっとまた逢おうと思う。

 

78 源兼昌みなもとのかねまさ

〈原文〉

淡路島あはぢしま通ふ千鳥の鳴く声に幾夜いくよねざめぬ須磨すま関守せきもり

〈現代語訳〉

淡路島へ飛び交う千鳥の鳴き声に、幾夜目を覚ましただろうか、須磨の関守は。

 

79 左京大夫顕輔

〈原文〉

秋風あきかぜにたなびく雲の絶え間よりもれづる月のかげのさやけさ

〈現代語訳〉

秋風にたなびく雲の切れ間から漏れ差してくる月の光のなんと澄んで美しいことよ。

 

80 待賢門院堀河

〈原文〉

ながからむ心も知らず黒髪くろかみの乱れて今朝けさはものをこそ思へ

〈現代語訳〉

昨夜契りを交わしたあなたの愛情が長く続くかどうか分からずに、お別れした今朝はこの乱れる黒髪のように心も乱れ、物思いに沈んでいます。

 

81 後徳大寺左大臣ごとくだいじのさだいじん

〈原文〉

ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明ありあけの月ぞ残れる

〈現代語訳〉

ほととぎすが鳴いたほうを眺めれば、ただ有明の月だけが残っている。

 

82 道因法師どういんほうし

〈原文〉

思ひわびさても命はあるものをきにへぬは涙なりけり

〈現代語訳〉

恋の思いにこれほど疲れ切っていても、命は続いているのに、辛さをこらえきれずに流れてくるのは涙であることよ。

 

83 皇太后宮こうたいごうぐうの大夫俊成だいぶとしなり

〈原文〉

世のなかみちこそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿しかぞ鳴くなる

〈現代語訳〉

この世には、悲しみや辛さから逃れる道などないのだなぁ、思い詰めて入った山の奥でも鹿が悲しげに鳴いている。

 

84 藤原清輔朝臣ふじわらのきよすけあそん

〈原文〉

ながらへばまたこのごろやしのばれむしと見し世ぞ今はこひしき

〈現代語訳〉

生き長らえれば、苦しい今もいつか懐かしく思い出されるのだろうか、あれほど辛かった昔の日々も、今は恋しく思えるのだから。

 

85 俊恵法師しゅんえほうし

〈原文〉

もすがらもの思ふ頃は明けやらでねやのひまさへつれなかりけり

〈現代語訳〉

夜通し恋に思い悩んでいる今日この頃は、いつまでも夜が明けなくて、(明け方の光が射し込んでこない)戸の隙間さえ冷たく無情に感じられることよ。

 

86 西行さいぎょう法師

〈原文〉

なげけとて月やはものを思はするかこちかほなるわがなみだかな

〈現代語訳〉

嘆けと、月が私に物思いをさせるのでしょうか、いやそうではない、それなのに、まるで月のせいあるかのようにして流れる私の涙よ。

 

87 寂蓮じゃくれん法師

〈原文〉

村雨むらさめつゆもまだぬまきの葉にきり立ちのぼる秋の夕暮

〈現代語訳〉

通り過ぎていったにわか雨の滴もまだ乾ききっていない杉やひのきの大木の葉の辺りに、ゆっくりと白い霧が立ち昇ってくる秋の夕暮れよ。

 

88 皇嘉門院こうかもんいんの別当べっとう

〈原文〉

難波江なにはえのあしのかりねの一夜ひとよゆゑ身をつくしてや恋ひわたるべき

〈現代語訳〉

難波江に群生する葦の刈り根の一節ではありませんが、たった一夜だけの仮寝かりねのために(一晩だけ一緒に過ごしたせいで)、あの澪標みおつくしのように、身を尽くして生涯恋い焦がれ続けなければならないのでしょうか。

 

89 式子内親王しょくしないしんのう

〈原文〉

たまよ絶えなば絶えねながらへばしのぶることの弱りもぞする

〈原文〉

私の命よ、絶えるものなら絶えてしまえ、このまま生き長らえていたら、耐え忍ぶ心が弱って恋心が表に溢れ出てしまうかもしれないから。

 

90 殷富門いんぷもん院大輔いんのたいふ

〈原文〉

見せばやな雄島をじま海人あまそでだにも濡れにぞ濡れし色は変はらず

〈現代語訳〉

この血の涙で真っ赤に染まった袖をあなたに見せたいものです。松島にある雄島の漁師の袖さえも、波で濡れに濡れても色は変わらないというのに。

 

91 後京極摂政ごきょうごくせっしょう前太政大臣さきのだいじょうだいじん

〈原文〉

きりぎりす鳴くや霜夜しもよのさむしろにころもかたしきひとりかも寝む

〈現代語訳〉

こおろぎが鳴く霜の降る寒い夜に、私は狭いむしろに自分の衣だけを敷いて一人寂しく寝るのだろうか。

 

92 二条院讃岐にじょういんのさぬき

〈原文〉

わが袖は潮干しおひにみえぬおきの石の人こそ知らね乾くもなし

〈現代語訳〉

私の袖は、引き潮のときでさえ見えない沖の石のように、誰にも知られずに恋の涙で濡れ、乾く間もない。

 

93 鎌倉右大臣

〈原文〉

世の中は常にもがもななぎさこぐ海人あま小舟をぶね綱手つなでかなしも

〈現代語訳〉

世の中は、こんな風に永遠に変わらずにあってほしいものだ。波打ち際を漕ぐ漁師の小舟を綱で引いていく光景の切なくも愛おしいことよ。

 

94 参議雅経さんぎまさつね

〈原文〉

吉野よしのの山の秋風小夜さよふけてふるさと寒くころもうつなり

〈現代語訳〉

奈良の吉野の山に秋風が吹き、夜が更け、かつて古都であった吉野は寒々しく、衣を砧で叩く物悲しい音が聞こえてくる。

 

95 前大僧さきのだいそう正慈円じょうじえん

〈原文〉

おほけなくうき世の民におほふかなわが立つそま墨染すみぞめの袖

〈現代語訳〉

身の程もわきまえないことだが、この辛い浮き世を生きる民に覆いかけるよ、比叡山に住み始めた私の墨染の袖を。

 

96 入道前にゅうどうさきの太政大臣だいじょうだいじん

〈原文〉

花さそふあらしにはゆきならでふりゆくものはが身なりけり

〈現代語訳〉

桜の花を誘って吹き散らす嵐が吹く庭は、花びらがまるで雪のように降っているが、本当にりゆくのは、私自身なのだよ。

 

97 権中納言定家ごんちゅうなごんていか

〈原文〉

来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩もしほの身もこがれつつ

〈現代語訳〉

松帆の浦の夕凪ゆうなぎの時刻に焼いている藻塩のように、来てはくれない人を想って、私の身は恋い焦がれているのです。

 

98 従二位じゅにい家隆いえたか

〈原文〉

風そよぐならの小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける

〈現代語訳〉

風がそよそよと楢の葉に吹いている、この楢の小川(上賀茂神社の境内を流れる御手洗川みたらしがわの別名)の夕暮れは、まるで秋のような気配で涼しいが、みそぎの行事が行なわれていることだけが、夏の証であることよ。

 

99 後鳥羽院ごとばいん

〈原文〉

人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑにもの思ふ身は

〈現代語訳〉

人が愛おしくも、また恨めしくも思われる。苦々しい思いを抱えながら、この世を慮るがゆえに、思い悩んでしまう私には。

 

100 順徳院じゅんとくいん

〈原文〉

百敷ももしきふる軒端のきばのしのぶにもなほあまりある昔なりけり

〈現代語訳〉

宮中の古い軒にひっそりと生えている忍草を見ていても、偲んでも偲びきれないほどに思い慕われるのは、古き良き時代のことよ。